池田 靖史 いけだ やすし |
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日本建築学会理事 IKDS 代表 慶應義塾大学教授 |
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今回、甍賞の審査に参加させてもらい多くの意欲的な作品に大変感銘を受けたが、
全体を通じて改めて思ったことは瓦という建材が歴史的景観を担って来た伝統ある素材であるだけでなく、
耐候性や持続可能性などの観点で現代においても十分に機能的かつ合理的な材料で、
さらに今後の新たな展開の可能性も持っている先端的な材料にもなるという三つの側面の面白い事実であった。 一般部門で金賞を獲得した京都銀行西七条支店は、古都の京都の印象を大きく左右するとても目立つ立地にある建物が単に既存の景観的印象の継承に配慮するだけでなく、 交差点の角の敷地に合わせて45度に屋根を切り開きエントランスとすることで、現代的な都市スケールの文脈が瓦屋根に新しい表現と意味を持つことに成功し、 前述の三点が見事に融合した建築である。同じく住宅部門の金賞に輝いた「城下町」N邸も、瓦屋根がありきたりの伝統和風になること無く、 コンクリート打ち放しの力強さや白壁のコーナーウインドウのモダンな表現との出会いで、単なる調和を越えた独自の美学へと昇華できることを示していた。 また銀賞に留まったものの、南あわじ市役所が示したサスティナブルな外皮ルーバー素材としての瓦の可能性は、 まさしく未来を拓く意義ある先進的実践であり、地域の住民にとっても親しみやすく誇りを持てる存在になるだろうと思われた。 そして銅賞の西尾城下町矯正歯科ブルーノのように瓦屋根の既存イメージに囚われない思い切った挑戦がこれからも瓦屋根の魅力を拡大し伝統と未来を繋ぐ役割をもっている。 こうした挑戦は学生部門の多くの作品に共通してみられた意識でもあって、デジタルファブリケーション技術などを鍵にして、過去、現在、未来が見通された新しい瓦の利用が、 オリンピックの舞台で日本の伝統と技術を海外に認知させるにふさわしいであろうと、参加者に明確に意識されていることに、 瓦建材と瓦建築の進化がこれからも続いていくだろと確信することができた。 |
近角 真一 ちかずみ しんいち |
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集工舎建築都市デザイン研究所代表 東京建築士会会長 |
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今年の甍賞は切妻大屋根の伝統を守りつつも、現代の建築ニーズに対応する清新な造形を示した二作品が圧倒的な強みを見せた。 金賞の「城下町」N邸は、緩やかな地形に埋め込まれたRC造の車庫の上に、土蔵のような表情の木造平屋が乗っている作品である。 妻・軒の両方向に薄く長く張り出して建築全体を覆う切妻大屋根の瓦葺のエッジが、下部のRC造の水平垂直のラインと見事な対比を見せて美しい。 金賞の「京都銀行西七条支店」も、伸びやかな大屋根の表情がひときわ目を引いた。 切妻大屋根の一辺を街路の隅切に合せ45度にカットする操作だけで、建築が都市に開く見事な応答関係を作り出している。 銀賞が与えられた「南あわじ市役所」は外装壁面材としての瓦の新たな可能性を示した点が評価された。 瓦は二本のステンレスワイヤーで上下に間隔を空けて吊る仕組みは正面からは見えないので、群となった瓦が浮遊している不思議な壁面効果を都市に与えている。 景観賞の「島のこども園」は瀬戸内の海とミカン畑と斜面に建つ家並みの中にすっぽり嵌まり込み、ふるさと景観の一部を形成している。 地形に合せて小刻みに屋根面を切り返す造形は、この地の集落形成の論理そのものである。 学生部門の応募作品は総じて、建築単体から群造形へ、そしてさらにシステム志向へと展開して行く傾向を見せ、単体志向の一般・住宅部門とは好対照であった。 金賞の「IRAKA STADIUM」はシステム志向の極致で、BIMがいよいよ、当たり前の設計ツールとなった時代を印象付ける意欲作である。 銀賞の「重奏。石州瓦 積集」は一見カオスに見えながらも複雑系を思わせる空間パズルを丹念に良く描いている。 銅賞の「和心溢れる交差点」は都市スケールの公共造形物へ、瓦意匠が適用されてゆく可能性を垣間見せてくれている。 |
堀場 弘 |
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シーラカンスK&H 代表 東京都市大学教授 |
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瓦屋根についての賞であることから、従来の伝統的な和風建築ばかりかとも思えばそうでもない。
現代建築に瓦がどのように活用できるか、地域特性を生かして私自身も瓦を使った建築を設計する機会を持ちたいと思う。
瓦屋根の風景を現代にいかそうとして単純に現代建築に利用したときに齟齬が生じる。そこにどのような工夫をしているかが興味深いと思う。
「京都銀行」は、交差点にある敷地の形状の屋根の納まりは巧みで、大きな屋根面のコーナーが街への顔としてつくられている構成など、
現代建築への瓦の採用についてバランスがとれている作品。
「南あわじ市庁舎」は、現代建築のなかで最大限瓦の利用について工夫し新しい使い方や再生利用などに取り組んでいる。
「矯正歯科ブルーノ」は、地面に屋根が載っているような不思議な構成で、瓦屋根の新しいあり方が評価された。
「島のこども園」は、瓦屋根の連なる地域の景観に調和した建築で、最も瓦屋根の原風景を思い出させ、自然な使い方に好感が持てた。
「城下町N邸」は、RCを巧みに組み合わせ、深い軒とテラスを持った建築でディテールや庭の修景などにも細かい配慮がされていて、落ち着いた秀作である。 学生部門については、おもしろいものが多かった。 「IRAKA STADIUM」伝統的な素材である瓦のイメージをスタジアムというオリンピックの最大、核心の建築に適用した大胆さ、イメージだけでなく、 瓦の構法、製作まで踏み込んだ提案など評価できる。小さな単位が集積することを適切に表現していて、数種類の瓦でこうしたうねる屋根が実現できる可能性を感じさせる。 「重奏。石州瓦 積集」は巧みなドローイングなどで日本の現代都市のイメージを瓦屋根で表現した。 「和心溢れる交差点」は現実的な提案だが、現代ではフィクションを感じる。 「浄化景=屋根葺き」は瓦の景観以外での利用について考え、再生利用を詩的に表現したもので、他にない作品だった。アイデア、表現など学生ならではの作品が選ばれたと思う。 |
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